Alice Doll

 さてと、と谷田部アランは辺りを見渡した。工具が散々散らばって、地面には抉れたあともある。

 これはヒドい。なんて口からこぼしながら、手近なものから拾い始める。

「あ、私も」

 手伝います、と言おうとした矢先、アランに制止された。

「手伝ってくれるのは有り難いんだけど、直す場所とか決まってるんだ。
 決まったところにないと、ソワソワしちゃって落ち着かなくなるからね。でも、ありがと。由衣さん」

 やんわり手伝うことを拒否され、由衣は手持ち無沙汰を覚える。
 拒否されたからといって嫌な思いこそしてないものの、このまま放置して背を向けるのも気が引ける。


 どうしようか思案していると、奏が小声でそっと助け舟を出してくる。
 遠くに散らばっているものを、近くに持ってこよう、と。


「奏様!」

 奏の行動を制するように、谷田部が慌てて声をかける。

 それもそうだろう。奏と谷田部の関係は主従であり、谷田部は奏に仕えているのだ。
 どの世界に主人を働かせる従者がいるだろうか。

「谷田部、厚意は受け取っておきなさい。それに、片付けるのはお前だよ」

 私たちは集めることしかしないのだから、と言う奏の言葉に谷田部は目を右に左にキョロキョロさせる。


「これもご迷惑、ですか?」

「いや! そんな!」

 奏の後を押すように由衣がスパナを手に問う。
 その姿が脅しているように見えなくもないが、これは余談としておこう。