Alice Doll

 由衣と目を合わせるのを避け、恥ずかしいのか顔を赤くしているのは筋肉質な大柄の男。
 くすんだ金髪に、茶色の瞳。肌は程よく日焼けしており、サングラスが似合いそうだ。

 どう見ても料理人とは思えない。唯一、ベビーピンクの可愛らしいエプロンが、料理をする人間だと主張している。

「……口にあった、かな?」

 見た目にぴったりの重低音で聞かれ、由衣は大きく首を縦に振った。
 相変わらず、目を合わせてくれないが、由衣の動作に良かった、と目を細める。

 由衣が改めて礼を口にすると、夜壱谷はますます顔を真っ赤にした。

「べっ、別にお礼を言われるほどのことはやってない! お、お礼なら奏様に! お、オレは奏様の言葉に従っただけなんだし……」


 夜壱谷の言葉は尻すぼみになっていく。奏は少し呆れたように笑っている。

「夜壱谷は、恥ずかしがり屋なんだ」


 と、奏が言うと、夜壱谷は俯いてしまった。感想を聞きたくて出てきたものの、なかなか自分から切り出せず、庭園の前を行ったり来たりしていたらしい。

「や、やっとの思いで来たら自分の話をしていて、とても驚きましたよ……」

 それで余計固まってしまった、夜壱谷は顔を俯かせたまま、こぼすように呟いた。

「夕食も、このデザートも、とっても美味しかったから、是非口でお礼をって思ったんです」

「こ、こちらこそありがとう。料理するオレにとって、美味しかったって言葉以上の誉め言葉はないですから」


 夜壱谷はそう告げて、庭園から出て行った。相変わらず、視線は下がったままだったが、その口元は嬉しそうに上がっていたのを由衣は見逃さなかった。