『普通ではない会話』を体験した後、由衣の頭にはあの噂が蘇る。
…――人形館の主人は、生きた人間を捕らえて人形にしてしまう。
「か、奏さんは」
そんなことしませんよね? その疑問は、最後まで口にすることはできなかった。
数回会っただけの人間に、そんなことを聞くなんて非常識きわまりない上、それを聞いたら最後、関係が終わってしまうと直感したのだ。
代わりに、お菓子は食べないのですか? と手付かずのティースタンドを指さしてあやふやに笑いかけてみた。
側にいたセリアが気を遣って、小皿にお菓子を乗せ、奏と由衣の前に置いた。
セリアは食べないのか、と由衣は疑問を口にするが、微笑みながら首を振られてしまう。
「お気遣い嬉しいわ。けれど、今は客人である由衣さんに食べていただかないと」
作ったものに感想を聞くよう、言付かっているのです。お客様がこの館にいらっしゃるなんて久々だから、お口に合うかとても心配していましたわ。
ちいさなシュークリームを口に入れると、口いっぱいに甘酸っぱい柑橘系の香りが広がった。これは美味しい、と由衣は時間をかけて嚥下する。
次に手を伸ばしたのは小さなチョコレートケーキだ。シンプルだが、光沢のある見た目は、ビターを想定させる。
果たして、それはビターチョコレートであったが、ほのかに香るブランデーと甘いチョコレートムースが、より一層ケーキの魅力を引き立たせている。

