セリアの言った通り、奏は時を置かず部屋に入ってきた。

 服装は、先ほどと何ら変わりない、ワイシャツにズボンという出で立ちだった。
 しかしその長めの髪は一つに纏め、前髪も左右の耳にかけられていた。

「お待たせ、由衣さん。こんな部屋でごめんね」

 そう言うと奏は、きちんとした食事用の部屋もあるが、二人では寂しすぎること。
 家族がいたならその部屋を使うが、残念ながら家族が大分前から帰省中のため、利用してないことを告げた。

 そういえば、と奏はテーブルに肘をつき、少し困ったように小首を傾げた。そして、やっぱり言うべきだね、と独り言のように呟く。


「ねぇ由衣さん。貴方の鍵を盗った猫の特徴、もう一度教えてくれる?」

 猫の特徴? 由衣は先ほどの事件を振り返る。

「えーっと……。確か真っ黒な毛並みで、見た目にもつやつやしてそうでした。目は綺麗な青で……。あ! 声は子猫みたいに可愛いのに、性格は最悪でした! 私を見て笑いましたもん、バカにするみたいに!
 最初は飼い猫かなって思ったんですけど、でもやっぱり首輪が無かったので違いそうです」

「そっか。……由衣さん」

「は、はい?」

 奏がふぅ、とため息をついたことに、由衣はドキッとした。猫はこの屋敷で見失ったのだ。彼の猫だという可能性は低くない。