それから、家に送ってくれるという申し出を由衣は丁寧に断った。
 しばらく納得されなかったが、悪いから、そこまでして頂くわけにはいかないから、と断り続けた結果、そこまで言うならと諦めてもらえた。

 が、すぐに由衣はそれを後悔した。

「じゃあ、夕食だけでも食べて行ってくれないか?」

 奏の誘いに、由衣は今度こそ断りを入れることができなかった。

 こんな顔でこんな笑顔で……、現代の王子様みたいな人に誘われて断れない人なんていないもん。これは不可抗力……! そうよ、不可抗力! 誰だって答えはイエスになるわよー!

 由衣は誰にともなく心の中で弁明すると「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」と、顔を真っ赤にして奏に応えるのだった。


「そうか、良かった。後でセリアに電話を持って来させるから、それで家に電話をすると良いよ」

「ありがとうございます」

 気にしないで、と奏は微笑み、首を曲げてセリアの名を呼んだ。
 セリアはそれだけで言いたいことが分かったのだろう。かしこまりました、と言うと、由衣に向き直る。

「では、こちらへどうぞ」


 セリアの言葉に従い、由衣はすくっと立ち上がる。いつの間にか足の疲れは和らいでいた。

 ミルクティーのおかげかもしれない。そうとなればセリアにお礼を言わなくては。

 由衣はそう心に留め、セリアの背中を追いかけるのだった。