莉香は立ちすくむ俺の横をスッと通り過ぎて、部屋のなかで最も存在を主張している青く光る水槽を慈しむような瞳で微笑みながら眺めた。 俺は水槽に映った見たことのない莉香の無防備な顔にドキリとした。 そして、その水槽にはありえない部屋の風景と莉香の姿に動揺した情けない俺の姿もうつしている。 莉香は、虹色に輝くオビレをひらひらさせながら優雅に水槽を泳ぐ魚のあとを水槽越しに指で楽しそうなぞっている。 今の俺にはまっ青なこの空間で自分が“立っている”という自覚をもつことが精一杯だ。