杏奈の顔が徐々に曇っていく。
それはまさに晴れ模様だった空に通り雨の兆しがみえる、そんな光景。
「……潤さぁ、もうとっかえひっかえ女の子と寝るのやめた方がいいよ」
杏奈は低くうなだれたような声を落とした。
「潤はそんな気なくても女の子たちは勘違いする。愛してくれてるって思っちゃうよ」
びっくりした。
自分の行為を咎められていることより、杏奈の口から“愛”とかいう言葉がでてきたことに。
杏奈でも愛とか恋を意識したりするのか…意外だった。
「ちょっと聞いてる?!」
呆然とする俺に喝がとんでくる。
杏奈は厳しい顔つきで箸をビシッと俺にむけた。
「……別に平気なんじゃない?全部が全部俺が誘ったわけじゃないし。向こうだって遊び感覚っしょ」
杏奈は呆れた様子で、そこからもうその話題については何も言わなかった。
ただラーメンをすすって、他愛のない話題に切り替えた。
こうやってほかの女みたくグチグチ言わないところが俺と杏奈の友人関係が長く続いている理由だと思う。



