ある日、音楽室に行ってみると、机にらくがきがあった。
くだらない絵が、ズラズラと並んでいた。

鈴夏は、こういうのが許せない人間。みんなが使うものを自己中心的に使うことが嫌だった。
鈴夏はあたりまえのように落書きを消した。鈴夏の机は、一番後ろ。
その机を使うクラスはあまりいない。
この学年では、鈴夏のクラスとC組だけだ。

そして、「落書きしないでください。」と書いた。
すると、次の音楽の時間には
「どうして?つうーか、あんたもらくがきなんじゃね??」
とかえってきたのだ。
鈴夏は、ちょっとムッとしながらまたシャーペンを手に取り、
「コレは注意です。公共物なのでやめてください」
と書いた。
「まあ、いいや。えーでもたのしいじゃんか~らくがきってさ。」
「楽しくありませんっ。次に机を使う人に迷惑です」

…らくがきに落書きで注意するという行為は全然終わる気配を見せなかった。

 そのうち、注意のことなんて忘れて世間話や相談に変っていた。
鈴夏のつまらない学校生活も楽しく感じてきていたのだった。

「ねえ、あなたの名前は?」
「えっとぉ~、〇村〇也…うっそ〇・ヨンジュン。ひっみつー☆君は?」
「な、何それ~。じゃあ、わたしも秘密☆」
楽しかった。毎日、毎日。顔は、見えないけれど力をくれた。
自分のことを何もしらない相手だからこそ、自分を隠せた。
もう一人の自分でいられた。

「あなたの好きなタイプは?」
「んー…君みたいな明るい女の子カナ~。」

(…!!!!!!!)
びっくりした。鈴夏は、すぐに確かめた。[明るい]なんて鈴夏には縁の無い言葉。

「…私ってそんなに明るい??」

返事が早く知りたくてたまらなかった。

「バリバリ明るいよ。…あいたいな~」

返ってきた言葉。鈴夏は戸惑った。
明るいところが好きなのに、本当は暗くて地味だなんて知ったら嫌われると思った。
明るいといってくれた人には、明るい自分を見せていたい。
だから、鈴夏は、隣のクラスの自分と正反対で美人な“山川 真央”と書いたのだった。