―誰かが幸せを手に入れると、誰かが幸せを手放してしまう。
 全ての人が幸せになる事なんてありえるのだろうか。

 デートから約一週間後から、鈴夏は体に小さな傷を作るようになっていた。鈴夏の身の回りでは、変なでき事が頻繁に起きていた。
最初は、シャーペンや消しゴムなどがなくなるなど小さなことだった。
だから、鈴夏もただの自分のミスかいたずらだと思っていた。
しかし、それはどんどん大きくなっていった。
靴箱や、机の中に入っている小さな紙切れには、
『きもいくせにいちゃついてんじゃねぇよ』、
『てめぇと日向じゃつりあわねぇ』という自分と日向の交際を批判することばかり書かれていた。
それでも、まだ鈴夏は耐えられた。
日向は、いつも笑顔で微笑んでくれる。隣にいてくれる。明るい声で自分を呼んで自分を見てくれる。
それだけで、耐えられた…
携帯電話への嫌がらせのメール、電話。
『死ね』『きもい』・・・。自分の存在を否定される。
慣れているはずなのに、苦しくて…でも、日向に心配をかけたくない。そんな気持ちが鈴夏を動かせていたのだった。

「大丈夫、大丈夫。私はこんなの慣れてる。」

と自分に言い聞かせて。
しかし、限界はある。鈴夏はストレスと疲労がたまり、学校を早退したり、欠席したりすることが増えていったのだった。