顎に手をまわし、俯いていた顔を上げさせ、黒い瞳をのぞく。


「奈津美どうした?
何かあった?」


「な、何もないよ。」


目をそらそうとする奈津美。


顎から手を離し。両手で頬を挟む。


そらす事は許さない。


何があったんだ?


俺に言えない事なのか?


「奈津美、答合わせだよ。
なんで寝不足なの?」


二人だけに通じる言葉。


もう、奈津美は言うしかなくなるはず。


さぁ、言って奈津美。


俺に言えない事があるなんて、認めない。


「あっあのね。
昨日の帰りに、テニス部のマネージャーの沢井さんが私に会いに来たの。」


「テニス部のマネージャー?」


「うん。」


そうか。


だから言いにくかったのか。


まさか、奈津美の所まで行くなんて。


「俺をテニス部に入れるように言われたのか?」


「うっ、うん。」


黒い瞳が揺れる。


よく見ると、目のふちが赤い。


沢井に言われて、悩んで寝不足じゃなく泣いたのか?


何か言われたのか?


「なんて言われた?」


潤んでいく瞳。


ひどい事言われたのか?