誰も俺なんて見ていない。


インストラクターたちが見ていたのは、『社長の息子』ただそれだけ。


居場所がなかった俺は、それでも通い続けた。


一通りやると、テニスをやっている時に、一番他の事が忘れられる事が出来た。

俺は続けた、忘れたいために。


テニスをやって、楽しいなんて思った事もなくても。

そんななか、小学三年生の時祖母が亡くなった。


たくさんの人がが集まり葬儀がおこなわれ、俺は真実を知った。


俺がドア近くの廊下にいると知らない近所の人たちの会話で、真実を知った。




『おばあちゃんよく幸治くんの世話してわよねー。』


『あんなに産むの反対して、中絶するように言ってたのに。』


『だから、その罪滅ぼしもあって世話してたんじゃない。』


『でもよく産んだわよねー。
死ぬかもしれなかったんでしょう?』


『そうよ。
あの頃は、ずいぶん体弱ってて。
だから旦那も中絶するようにさんざん言ったんだってよ。』


『でもよかったじゃない。
母子ともに大丈夫だったわけでしょう?』


『そうでもないのよ。
出産のせいで、さらに体こわしたみたいよ。』