自分がどう思っているかを、自分の知っている言葉で声にするだけではないのか。
 なにも、卒業論文をもう一度書けと難題を吹っかけているわけではない。

 その優柔不断に、私はため息をつきかけた。
 直前で止めたのは、私の優しさだ。

 彼はそれにも気づいていない。
 前橋に言わせれば、私はサディストなんだそうだ。

 ふざけるなと何度も唾棄した。思ったことを言葉にして、それが少々辛辣だというだけでサディスト呼ばわり。
 前橋にきつい言葉を投げるのは、本心だということに気づかず――もしくは目を瞑って――、サドだツンデレだとほくそ笑んでいる。

 勘違い甚だしく、何度訂正しようが彼は信じる気がない。

 そしてようやく前橋は口を開いた。

「俺は、友達以上になりたいって、思ってる」

 それは親友ってこと?

 私は、すぐそこまで出かかった言葉をなんとか飲み込めた。
 ここにきてまで「好き」と言わない。「女として見てる」と言わない。

 昨今、草食系男子が人気だそうだが、私にはまるで理解できない流行だと思う。
 否、ヘタレが時折見せる男然とした力強さにやられてしまうのだろうか。

 ならば、ヘタレっぱなしの前橋は、どうなのだろう。
 草食系とも言えないのではないか。むしろ食われる草――私は、今度こそはっきりと眉根を寄せた。

 あって然るべきなのではないか、「千葉さんは、どうなの?」という返しが。
 私が胸中で罵詈雑言を吐いているとは思いも寄らないだろう、前橋は一瞬だけ私を見た。

「友達で、終わりたくないって思ってる」

 遠まわしに言えば、また私が直球で返答するとでも期待しているのだろうか。