車の止まる音。
遼は子犬の様にシッポをふりながら階段をかけおりる。
あんな風に人懐っこく出来たらいいのにな。
「いらっしゃいジャスティン君!僕のこと覚えてる?」
「ハーイ遼、ジャスティンでいいよ。残念だけど覚えてない。
でも遼と写した写真はたくさんあったよ。」
「ゆ~か~、早くおりてきなさーい。」
おかあさんが叫んでるけど
小さい部屋に押し込められた私としては気持ちよく笑顔で
「いらっしゃーい」とは思えなくて
呼ばれてもすぐには階段を下りていかなかった私。へそ曲がり・・。
あっ
あいつの頭が見える。遼と握手したりハグしたりしてる。
不意に顔を上げる泣き虫だったおかっぱ頭のあいつ。
私の足が

動かない

動けない。
 
だってそこにいたのは背が180cm位あって
顔が小さくて、眉毛がきりっとしてて・・・
イケメンで、決して泣き虫の小さなアイツじゃなかった。
「ハイ 由香」右手を差し出している。
私の目を見る。
私もつられて右手を差し出す。と同時に・・・・。

えっ?

アイツの胸の中にいた。

それは

ただのアメリカ式の挨拶のハグなのに
ほんの1瞬のハグなのに
アイツの胸板の厚さや、心臓の音が私の思考をストップさせた。

「由香、もう赤鬼みたいじゃないね。」
 
なんの事かわからずに顔を上げる。

「あの頃よく俺を庇ってみんなを怒ってくれてたよな、由香」

その顔はいい男だけに許される口の端を少し上げた含み笑いだった。
いい顔だけに余計むかついてきた。
ムカつきすぎて言葉が何も出てこない。
1瞬でもときめいた自分がうらめしかった。

やっと一言「ふんっ」と言って2階に駆け上がる。

あーあー出た言葉が「ふんっ」だなんて

あーもーーーーーーー!!!!