出たのは恐らく母親だろう。
若い男の声と警戒したような母の声が聞こえてくる。
家族との交流も滅多にない私は、母にこの出来事を話せる訳がなかった。
言ったところで厄介事を増やすだけであるし、ただでさえ厄介者な私の話を、まともに受け取ってくれるかも分からない。
私は家族にとって、とんだお荷物人間なのだ。
最善の注意を払い、聞こえてくる声に神経を集中させた。でも会話までは聞き取れない。
それから間もなくして会話が途切れたと思ったら、誰かが階段を上ってくる音がした。
不味い。
私は急いでドアの前に駆け寄ると、背をくっつけてドアが開かないように座り込んだ。
足音が近づく度に、心音がドクドクと耳鳴りのように響いていた。

