哀・らぶ・優

「ゆうちゃん、アイス食べたーい。」

食事の後しばらくソファでまったり過ごし、ふいに結衣は言った。

『じゃあ一緒に出るか。』

優太の返答に、結衣は後悔した。
一緒にコンビニに行こう、という意味でないことを理解しているからだ。

「何で？まだ8時だよ？」

悲しそうな結衣の顔を優太は見ようとしない。
優太はいつも、結衣の悲しそうなぎ表情にも、それを隠して笑っていることにも気づいていた。
その原因を作っているのが自分だということも知っていて、分からないのは、結衣の悲しみを取り除く方法だけだ。
あるいは、本当はそれも知っていて知らないふりをしているのかもしれない。

『ごめんな。最近仕事が忙しくて。
今日定時に上がるために今週はずっと残業だったんだよ。だから今日は早く帰らないと。
香代子に変な詮索されて会えなくなるなんて嫌だろ？』

優太の声は優しかった。
結衣は優太を困らせたくなくて「分かった」と笑顔を見せる。
奥さんのことをいつもは“妻”と言っているのに、この時に限って名前を出され、
優太の心がもう奥さんの待つ家に向かっていることを知る。
引き留めるのは無理だと分かっていた。

『いい子いい子。来週は有給使ってゴルフって言ってあるから。1日一緒にいような。』

結衣は頭をなでる優太の手を握る。

「約束だよ？結衣にはそれまでこの指輪があるから、早く奥さんのところに帰りなさい。』

おどけた声に安心した優太は、来た時のような優しいキスをし、足早に部屋を出た。