目が覚めて分かった事。それは、何も夢ではなかったと云う事だ。携帯には、夢と云うメモ帳のメッセージが残っていた。
 僕は一体どうしてしまったんだろう。僕は考える。或いは、これもまた夢の続きか――。
 下らない事を考えて、僕は自己嫌悪に陥る。
 朝目覚めて、母さんに確認したところ、僕は帰って来てご飯を食べずに、直ぐに風呂に入って寝てしまったらしい。
 余程眠かったのだろうか。それで記憶が飛んで、いなかった男の子の夢を見てしまったのだろうか。そう考えるとそんな気もするから人間は不思議なものだ。
 甘ったるい匂いがした。かと思うと、僕の背中には何かが乗っていた。恐らくそれは愛姫。
「レンん。」
 愛姫は甘い声で僕の背中に頬を擦り付けている。
「本も読まずにどうしたの?」
 僕は机の上に本を広げ、手で押さえているままだった。今日はどうも読書が捗らない。
「愛姫。」
「何?何?」
 今度は、愛姫の頬が僕の頬に重なった。
「愛姫の池の近くにさ、池ってあった?」
 愛姫から返事は返って来ない。振り向くと、愛姫の表情は固まっていた。
 愛姫。僕はそう、声を掛けようと口を開く。
「あったわよ。」
 そう答えたのは柚姫。声は同じなのに、柚姫の声の方が落ち着いている。
 僕は柚姫の方を見た。無表情。それで、愛姫の影に立っている。
「もう無いけれど。」
「無い?」
「小さな子供が溺死する事件が相次いで、埋められたの。」
「・・・。」
 何と云う事だ。
 全く馬鹿馬鹿しい夢だ。現実味に溢れた。
 疲れていたんだ。だから、こんな悪い夢を見ていたんだ。
「レン、どうしたの?」
 愛姫が不思議そうに僕に問う。僕は首を横に振った。
「何でもない。」
「気を付けた方が良い。」
 柚姫の声。だけど、僕はその柚姫の声に答える事が出来なかった。
 もう話す事は無い、と言うように柚姫は去って行く。風に髪が揺れていた。柚姫は自分の席に座る。と、窓の外を眺める。
「急に――、どうしたの?」
 愛姫が僕に問うた。何の事か。そうだ、池の事だ。
「ちょっと気になって。」
 愛姫はこれ以上僕に追究しなかった。その変わりに、か、僕の首に巻き付く腕に力を込めて締め付ける。愛姫に悪気は無いのだろうが、痛かった。