愛姫が柚姫に笑い掛ける。それは薔薇。柚姫も微笑んで返す。それは鈴蘭。
 どうしてその微笑みが僕に向けられていないのだろう。僕は嫉妬した。二人は双子だし、増してや僕は柚姫の恋人でもない。
 いっその事、柚姫に告白出来たらどんなに楽だろう。だけど僕は分かっている。そんな事してしまったら、結果がどうであろうとも、僕達三人の関係は壊れてしまう。
 だから黙っていなければ。いつまでかは分からない。でも、僕の忍耐が続く間はずっと。
「そう云えば柚姫、体育祭どの種目出るか決めた?」
「まだ。」
「だったら一緒に二人三脚しよう!絶対に一番よ!」
「そうね。」
 二人は双子なんだから息もぴったりだろう。愛姫はもちろん、柚姫も見掛けによらず運動神経は良いので一番は決まっているようなものだ。
 僕は、と考える。本当は一番楽な玉入れが良いのだが、どうせ今年もリレーに回されるだろう。
「楽しみだなぁ。」
 暫く緩んでいたと思っていた愛姫の僕を締め付ける力がまた入った。
 けれども二人の家はもう見えている。これも長くは続かないだろう。
 真っ白な壁にオレンジ色の屋根の、二人に似合ったお洒落な家。本物の暖炉まで付いていて僕は驚いた。
「愛姫。」
 柚姫が愛姫の、腕を引っ張る。僕と組んでいない方の腕。
「行きましょう。」
 愛姫は頷いて僕から手を離した。そのまま、少し走ってから僕に手を振る。
「ばいばい。」
「また明日。」
「レン、さようなら。」
 柚姫の声。僕の名前を呼ぶ。心地好かった。
 僕は二人が家に入るのを見送った。二人は美しいから。少しの距離でも何かあるかもしれない。
 僕は向きを変える。早く、帰ろう。愛姫に中断されてしまった本の続きが気になってしまう。
 僕は早足になっていた。二人の家と僕の家は意外に近い。お互いに小学校の学区の境目付近に住んでいるから。
 でも勉強もしなければならないし。時間はどれだけあっても余る事はない。
 と。
 幻聴だろうか。微かに、子供の泣く声が聞こえた気がする。僕は気になって立ち止まった。誰なんだろう。
 立ち止まって耳を澄ませていると、また聞こえてくる。これは幻聴ではない。
 僕は声を辿った。その方向は、僕の家から離れていく。でも、子供の泣き声が気になって。