ソラが下駄箱に立っていた。オレは嬉しくなる。気付かれないようにそっと忍び寄って。
「ソラ!」
 ソラの顔は真っ青だった。唇も、紫色に変色している。
 様々な種類のカッターナイフ、ハサミ、カミソリ、ジャックナイフがソラの下駄箱に入っていた。無数のティッシュと一緒に。そのティッシュには、白濁色の液体が掛かっている。
 ふわり、と。ソラの全体中がオレの腕に掛かる。
「もうダメ――。」
 ソラの声は震えていた。
「勝手に部屋の模様替えされてたし、歯ブラシにも――。リクがくれた物全部無くなってた。」
 警察に、と言おうとしてオレは言葉を飲み込んだ。親父さんがあれだからソラは警察を頼れないのだ。
「リクぅ。」
 ダメだ。このままでは本当にソラが。
「任せてて。」
 オレはリクの下駄箱を閉めた。
「今日は帰ってゆっくり休んで。」
 オレはソラを自力で立たせた。教室に向かう。
 ソラはちゃんと帰ってくれるだろうか。意外と真面目なヤツだから。でも、今はそれより。
「野村。」
 オレは野村を呼んだ。勉強をしていた野村は、オレに振り向く。
「何?」
「話があんだけど。」
「オレも丁度、そう思ってたから。」
 オレは野村を連れて体育館に向かった。今日は午後まで体育が無い日だ。
 体育館に着くと、オレは野村を体育館から少し離れた倉庫に連れ込む。誰にも邪魔されない唯一の場所だ。
「邪魔なんだよ。」
 オレが最初に言おうと思っていた言葉。野村から言われるとムカつく。
「オレとソラの邪魔ばっかりしやがって。」
「だったら正々堂々告白すりゃいいだろ?ストーカーなんてキモい真似せずに。」
「わかってないのか?」
 心底不思議そうに、オレを馬鹿にして野村は言う。ムカつく。
「ソラは喜んでるんだよ。オレにされている事全部!今朝だって肩を震わせて喜んでいただろ!」
「は?」