空が気持ち悪いくらい澄んでいる。雲は無い。まるで、水が浮かんで空を造っているようだ。
 僕は草の上に腰掛けていた。汚くて誰も来たがらない中庭。本当に汚くて、制服が汚れてしまう。
 だけど今は一人になりたかった。皆といると、少し気分が悪くなる。
 鯉のいなくなった、濁った池がある。それは空すら映していない。ずっと、濁
ってて。 この池はいつからあるのだろう。どれくらいの深さなのだろう。一体、いつまであるのだろう。積もり積もったごみで埋められてしまいそうだ。
 埋まる。池が。
 僕は柚姫の言葉を思い出してしまって、嫌な気分になった。こんな事なら違う場所にすればよかった。
 僕の知らない場所だった。なのに、夢に見るなんて。いや。もしかしたら、知っていたのかもしれない。近くではあるし、埋め立てられたのだから記憶を失っただけかもしれない。
 たかが夢。なのに、僕はどうしてこんなに気持ち悪いんだろう。
 僕は自分の膝に顔を埋める。そうしたら、少しでも気持ち悪さが消えるような気がして。それはただの気のせいだったけれど。
 しゃりん、と音がした。
 振り向くと柚姫が立っていた。僕のプレゼントした鈴の着いている学生鞄を提げて。柚姫は無言で僕の隣りに座る。
「愛姫が探してたよ。」
「別に――。」
 柚姫はもしかしたら僕を探しに来てくれたのかもしれない。そう思うと、とても嬉しくなった。
 僕の隣りに座った柚姫は僕を見ずに、その先にある池を見ている。
「――いるんだよ。」
「え?」
 僕は柚姫が何を言っているのかわからなくて聞き返した。柚姫は全く表情を変えていない。
「■■くんが。」
「何――?」
 誰がいると言うのだ。名前が聞き取れない。
 けれど、それはどうでもよくなってしまう。柚姫が、僕に腕を差し延べている。
 僕は差し出された柚姫の手を握った。そして立ち上がろうとした時、

 池の中に子供の顔が見えたような気がした。

「レン、どうしたの?」
 柚姫に呼ばれて僕は首を振った。何かの見間違いだ。だって、僕は疲れているんだから。
 そう、僕は疲れているんだ。
 だから、柚姫の影が一瞬亡くなったように見えたのも気のせいに決まっている。