強い風が窓から吹き込んで全てを揺らす。愛姫の髪も靡いて、濃いローズヒップの甘い香りが蘇った。
 どうして愛姫はこの香水を愛用しているのだろう。ふと、僕は疑問に思った。一年の時はいつも違う香水を使っていたのに、二年になってからずっとこの香水だ。
「レン。」
 そう呟いた愛姫の声は、柚姫かと思う程弱々しかった。更に腕に力が篭る。
「レンは、」
 愛姫の言葉が詰まる。それはまるで、泣いているようだった。
「愛姫、どうしたの?」
「――何でもない。」
 愛姫の腕が僕の手から離れる。僕の首は軽くなった。新鮮な空気が肺に染み渡る。
 けれど。
 僕の心は、何故か重く沈んだままだった。