牢の外にでると、そこは廊下になっていて湿気臭く肌寒い空気が流れていた。
「…次流す涙は…違う形で流したいな」
小声でつぶやいた芍薬に亜一はそっと微笑み返した。
「おうおう、そういえばどうやってここからでるんだ? 決心だけじゃどうにもならんぜ…?」
少し頭をかいて芍薬に目を向けた。
(大丈夫かこの譲ちゃん…)
「さっきも言ったでしょ? ここにずっと働いてるわけだし、脱出口ぐらいなら知ってるわよ。
この地下牢にも何度か来たこともあるしね… 気に食わない客とかくるとオーナーが…ね」
すこしうつむきがちで淡々と説明される。
悲しげな表情からはここでいろんなことを見せられたのだろう。
(芍薬さん… よっぽど辛かったんだろうな…)
「それより、こっちよ。ついてきて」
芍薬が首で招き颯爽と走りだした3人。
小柄な遊女『芍薬』の案内のもと、入り組んだ地下牢の道を走りぬけた。
途中ふと亜一が牢に目を向けると、まったく動かない人や、腐乱した臭いのある牢が転々とみえた。
「うっ…。 これはかなりひどいですね…」
「あんまり見ないほうがいいわ。長生きしたいならね」
皮肉気味た台詞を吐き捨てつつも、"早く出たい"と急がせる足はあぶなっかしい。
その小さな身体にはこの長い廊下は辛いだろうか。
「次の曲がり角で上に続く階段があるはずよ」
と、まもなく角を曲がると
「僕たちの…武器…? それと…これは…」
階段があったのはいいが、その前には明らかに意図的に置かれた2人の武器と亜一からも見上げるぐらいの長さの偃月刀が立てかけられていた。
「紅蛍(べにぼたる)…。これ… あたしの偃月刀よ」