まだ幼かったあたしには抵抗することも許されなくて、連れて行かれたわ。
家を出る間際に両親の顔を見たら2人とも嬉しそうに笑っていた。
『このお金があるなら明日から毎日おいしいご飯が食べれるわね』
『この金があれば毎日賭け事しても減らないな…』
あたしのことなんて見向きもせずに…ね。
『いくぞ』
と、その男が言って振り返ったときに今まで重なって見えなかったのよ、
もう一人来ていたの…
そう、あの用心棒よ。
ずっとあたしを見ていた。
あたしはそいつを見て、抗うことすらする気もなくなったわ。
――だからは忘れない。
そしてきっと許さない。
ここにあたしを連れてきた
"蝶一文字"を背負ったあの男と
あの用心棒、"カンジ"を…――
気付いたらもうそこは遊郭の中だった。
それからというもの、この遊郭の『花魁三人集』と呼ばれている今も現役の百合姐さんは
まだ幼かったあたしに遊郭のいろはを叩き込んだわ。
やりたくもない仕事を前に、不満そうな顔をするとすぐに手をだしてぶたれた…
あの家にいてもここにいても同じ運命を辿るなら、死んだほうがまし…なんて何度も何度も考えた。
でも監視された状況にいるあたしはそれすらも叶わなかったの…
それから気付けば5年という歳月が流れていた…
年月さえ流れることも忘れるくらい、辛いものだったわ。
百合姐さんの過酷な修行に耐えたあたしは13歳という若さでこの店で働き始めた。
ここにきたときの5年前とは考え方をかえて、頂点を目指してここから抜け出すことを決心したわ。
地位が高くなればきっと目を盗んで逃げれると考えたからよ…
それからの5年間…
その長い年月が皮肉にもこの芍薬を花魁にさせた…
――・・・…
