気づいたらそこは、部屋にあるベッドの上だった。

 上体を起こそうとすれば、急に胸が苦しくなって咳き込んでしまう。息をするのが辛くなり、倒れこむようにして空気を求めれば、背中に誰かの手が当たる。

 その人物を確認する余裕もなく、ひたすらに深呼吸を繰り返している間も、優しく撫でてくれる手。


 やっと楽になり後ろを振り返れば、やはりそこにはよく見知った人がいた。


「……」

 いつもなら「大丈夫かい?」だとか。「横になってた方がいいよ」だとか。そんなことを言ってくれるはずなのに。

 何も言わず、ただじっと見つめてくる彼。そんな様子に恐怖を覚えた。


「ねぇ、エマ」

 背中から手を外したかと思うと、すぐさま語りかけてくるフーリオ。声の調子があまりにも冷たくて、無言のまま目を合わせようとすると。

 声以上に冷たい目が待っていて、肩どころか体全体が震えてしまう。


「外に出ないで、って言ったよね? エマはオレが嫌い?」

「ご、ごめんなさい……! フーリオのことは好き、よ」

 優しくしてくれて、何でも出来るフーリオが嫌いなはずがない。けれど、恐怖に支配された体では声すらも震えて出てしまった。

 下を向いたまま彼の言葉を待っていると、一気に視界が暗くなってしまう。

 それが抱き締められた、ということに気づくまで大した時間は要らなかった。