扉を開いた途端。不快なほどの熱気が肌に触れる。
着替える場所は少し小さめで、鍵付きのロッカーが10個くらい。盗難が多いのだろうか。『鍵の閉め忘れ注意!』というポスターが壁に貼られていた。
昨日買ったばかりの服をするすると脱ぎ、雑に畳んだ後。鏡の前に行き、自分の顔を覗き込んでみる。
疲れているような、生気のない目。額にかぶさっている前髪が少しだけうっとおしくて乱暴に掻き上げた。
浴室へと続くガラス戸の前には、小さなタオルが積み重なっている。
一枚取ってからガラス戸へと手を伸ばすと、少しだけひんやりとしていた。
「うっわー、広いなぁ」
王都にいたころはシャワーが基本だったから、こんなに大きなのは初めて。ドラゴンを模った像の口から出てくるお湯にはビックリさせられる。
大理石もどきで出来た床は少しつるつるしていて、転ばないようにつま先立ちのようにして注意深く洗い場へと足を向けた。
固定されたシャワーが何だか懐かしく感じて、困難を乗り越えてやっと出会った恋人同士のように思える。頬擦りしてやりたい気分だ。
赤いシールが張られた蛇口を捻れば、出てくるのは丁度良い温度のお湯。下を向いた状態で、しばらく幸せをかみ締めていた。
