「おはようございます、クレイントン様」
ロビーに着くや否や、昨日のお兄さんが爽やかな挨拶をしてくる。どうやら夫婦か何かと間違っているらしい。
別に訂正する必要もないと思い、そのままにしておいた。それにしても、本名を使っていいのだろうか。フーリオの考えていることは良く分からない。
「お風呂の用意が出来ておりますので、突き当たりを右にどうぞ」
フーリオはどこまで用意周到なのだろう。
にこやかなお兄さんはバスタオルを私に差し出し、廊下の突き当たりを手で指し示した。
「はぁ、どうも」
小声で呟いてから、一歩。また一歩と突き当たりまで歩を進める。
広めの廊下は鏡張りのようになっていて、自分が何人もいるような錯覚に陥ってしまいそう。
突き当たりを右に行った場所には、お兄さんの言葉通りに看板が立てられてあり、いそいそとドアノブを捻った。
この時、私はもっとよく目を凝らすべきだったのだ。そうすれば、踏みとどまっていただろう。
この時間帯は『混浴』という看板も小さく立てかけてあったのだから。
