キミのいる世界で


「――なんて言ったらいいのか……その、すごく綺麗だ」

 照れたようにして、言葉を紡いだフーリオ。それに対して、私も照れることしか出来なかった。

 本心なのか、そうでないのかは別として。今までと全く違う自分を褒められるのは、素直に嬉しい。

 けれど、恥ずかしい気持ちは消えることがないようで。言葉に詰まった私は、『逃げ出したくなる』という何とも素敵な癖が再発した。


「あ、有難う。じゃ、じゃあ、もう行きましょっ!」

 服と同じように赤くなってしまった頬を隠すようにして、私はフーリオの手を思い切り引っ張る。

 乱暴に店のドアを開き、何処へ向かうのか分からない足取りは、運よく宿屋の前までと辿り着いた。

 奇抜な色の屋根は何をイメージしているのだろう。王都にある自分の家とは全く正反対な建物も、中は案外普通らしく。

 扉を開いた先では、お洒落な壁紙が目に飛び込んだ。


「結構、力強いな。そんなに疲れてたの?」

「ま、まあ。そんなとこです」

 考えなしの行動に大層な理由をつけてもらったところで、カウンターの奥にいた男の人が声をかけてくる。

 手には鍵。顔には人のよさそうな笑み。

 差し出された鍵には『18』と彫られてあり、それが部屋の番号だとすぐに分かるよう工夫されていた。

 気のよさそうなお兄さんは、私が鍵を受け取ると素敵な笑みを浮かべて一言。


「では、お二人で存分にお楽しみください。……フフッ」

 前言撤回。
 ちっとも素敵なお兄さんじゃない。