「こんなのはどうだろう? エマに似合うと思うよ」
口元に緩やかなカーブを描いたフーリオの手には、二着の服。
一つは赤を基調とした露出の高いもので、もう一つは白と灰色を基調とした大人しいもの。こうなってしまうと選択肢は一つしかなくて、迷わず私は白い方を指差した。
さっそく試着してみたいと思い、それを手に取ろうとすると。あと少しのところで、それは彼の手から飛び立つ。
綺麗な軌跡を描いた理想の服は、そのまま元の場所へと腰を据えてしまった。
よく分からない行動に首を傾げると、『新人隊員指導係』のような意地悪い笑みを浮かべるフーリオ。からかうような、右人差し指の動きもプラスされていたけれど。
「言っただろう? 自分が着なさそうな服を選ばなきゃ」
だからわざわざ好きそうな服と一緒に持ってきたのだろうか。
「……案外、性格悪いですね」
思わず、そんな言葉が口からこぼれ出てしまう。けれども、彼にはそんなもの何の効果も発揮しないようで――
「凶悪な魔法使いですから」
楽しげな声と、その一言で切り捨てられた。直後、カウンターへと運ばれた赤い服は早々に会計を済まされてしまう。
やっぱり着なきゃいけないのだろうか。近い未来にその服を着る自分を想像して、鳥肌がたった。
