「それは、双方とも互いを殺そうとすれば死ぬ――ということが書いてある。……これなら安心だろう?」

 向こうもまた、随分と恐ろしいことを言い出すようだ。引き笑いしつつもペンを握り締め、彼の名前の下に自分の名前をサインした。

 彼が再び呪文を唱えると、それは灰となり消える。一瞬だけ、心臓が熱くなったのは契約が交わされた証か何かなのだろうか。

 
 時刻は午前3時。

 この時間帯なら、兵士達の大半は寝ているだろうか。
 鍵の束からフーリオがいる檻の鍵を探しつつ、そんなことを考えた。

 やっと見つけた鍵を差し込むと、カチャリと音を立てて鉄格子は開く。ゆっくりと出てきたフーリオは、思っていたよりもかなり背が高い。少し驚いてしまった。


「それじゃあ、逃げようか。……あぁ、そうそう。キミの名前は?」

 どこか余裕ある様子は、流石というべきだろうか。私はどうやら、大変な決断をしてしまったらしい。


「エマ・オルブライトです」

 私は、どうなってしまうのだろう。
 さようなら、日常。