「先月…家の前でみさきさんに飛びかかったの覚えてる?あの時も意識飛んでたんだ。じゃれてる途中にみさきさんだって気づいて…ビビった」

「…だから急に逃げたのか!」

「みさきさんにバレないようにこのアパートから離れてたつもりなのに、気がついたら帰ってきてた。本当に狼になった俺バカー」

「つーか最初、隣のおっさん…田中さんの家にいたもんね」

「あの人、動物保護やってる人なん?俺を見つけるなり連れて帰って手当てしてくれるとこまで、すげぇ手慣れてた。」


田中さん…謎だ。今度話す機会があったら訊いてみよう。


「でも、あのまんま田中さんの家にいて、朝になったら危なかったよね?」


目の前で変身したりしたら、ねえ。


「ま、警察呼ばれたろうな 実際変身のくだりは見られてもなんとか誤魔化せるけど。警察が話聞いてもヤク中か寝ぼけたと思うだけだろ。さすがに俺みたいな存在は誰も信じねェよ」



喉で笑うリクはやはりどこか寂しそうに見える。

リクの綺麗な手を強く握った。何かが伝わるといい。


祐くんが彼を心配するわけだ。
誰にも頼らずに頑張ろうとするリクは偉い、だけど1人で背負いきれない荷物を抱えているリクを支えてあげなければ、彼はいずれ壊れてしまう気がした


「みさきさん?」


返事をする代わりに、握った手を少し揺する。