「母親は俺を生んで2ヶ月で死んだ。父親は知らねー。ガキの俺を引き取ったのは母方のじじい、だけどじじいはちと前に死んだから」

「俺は9割人間。月齢15で、月が綺麗に見える時間は狼になんの。めっちゃ天気悪ィとならない日もある。言っとくけど、生まれつきだから理由なんて知らねー」


「…」


「信じられないだろ?」



一気におとぎ話状態に連れて行かれた私はついていけずにまごつく。

狼男って…さ?外国の昔話?わからんけど、吸血鬼みたいなさあ、なんていうか、うん。

オバケとかそーゆーの?そっちのほうが信憑性あるよ…


吐くならもっとマシな嘘を。信じるべきなの?この超常現象話を。もし嘘だったら?まあ、ドッキリにしては頑張りすぎだけど



「みさきさん、起きてんの?」

「……起きてるよ」



明るくなった部屋で、2人で並んでソファーに座っていた。
彼の口調は穏やかで、しかしどこか冷たい。

きっと、彼にとっては面白くない話に違いない。わりといつもご機嫌だったはずの彼は今、静かで悲しげで、自嘲的で

そんな彼を相手に、何とコメントを返したらいいのか分からない。こんな告白をされたあと、言うべき言葉なんてあるのか?あるなら教えて欲しい。今すぐに。

……


衣擦れの音をたてることも憚られるような静かな時間が流れる





先にその時間を壊したのは彼の方だった



「…俺は、アンタの同情とか情けが欲しいんじゃないんよ」



リクの、吐き出すような言い方と、身動ぎをしてから出た溜め息。それら全ては今まで見たことのないような彼の姿だった。



「ただ、アンタが…みさきさんが。」





言葉を切って、次に出たのは本日数回目になる溜め息だった


「私が、なんすか」

「やめとく」

「言ってよ」

「やめとく」

「ハウス!」

「ひどい!」



さっきから「ハウス」という犬向けの命令が、長いインターバルをおいて頭の中に去来している。私、もう、ダメかもしんない。