覗き穴の中には祐くんがいた。あれ、リクはいないじゃん。

何にも考えずドアを開けた。


「すいませんみさきさん、こんばんは」

「こん…えっ!」


リクの鞄を持った祐くんの、のんびりした夜の挨拶、それとともに目を疑うものがそこにいた


「あんた、この前の……な、祐くんが飼ってんの!?」


相変わらずニコニコな穏やかな青年の腰元には大きな犬…じゃなくて、狼がいて、それはこの前うちのドアに体当たりしていた狼に間違いなくて


「あ、家に体当たりしたとかいう話はリクから伺ってます。というわけで、あとは本人から聞いてください…あ、逃がすとかナシですよ?」

「え、あの、リクの話は…」


私の理解不能っぷりを完全に無視して、祐くんは微笑んだ。


「狼さん、不満なら明日聞きますからね。まあ今は何言っても分からないか…」

がぶり、
狼が祐くんの手……食べた!?


「あ、なんだ。意識あったんですか。大人しくついて来たから…もう完全に犬化してるのかと思ってましたよ」


犬…じゃなくて狼は前肢で祐くんの足を踏んだ。


「いや祐くん、大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ」


青年はその動物の頭を撫でて、意外なことを口走った。


「あはは、覚悟できてますもんね、リク?」


り、く?名前?

そして彼は、ばっくりと狼に手を食われているにも関わらず平然と笑っていた


「あのう…」

「今夜は部屋に置いといてください。多分暴れないんで大丈夫ですよ」

「まさか、コレ置いてく気?冗談でしょ?」

「いやこれ、リクですから」

「ねえ祐くん、何言ってんの?」

「あはは。警察とかも呼んじゃダメですよー」

「ちょ、待って!」


彼は爽やかに立ち去ろうとしていた。服を掴んで引き留める。

「ねえ、リクの話してくれるんじゃなかったの…?」

「おやすみなさい、みさきさん」

手を払い落とされ、祐くんは振り向かずに行ってしまった。

「なによ、ただの、嫌がらせだったのか、」