「みさきさんアリガトー」

「せっかく格好いいんだから、オシャレな服着たほうがいいよ」

「最近は制服かジャージかスウェットしか着てなかったかんなー」

「ダメ学生だもんね」

「あ、ヒドイ」

「さて、本屋行こうか」

「やった」





みさきさんと一緒にいると、自分が普通で平和な暖かい世界に生きている感じがして、ついつい欲張ってしまう自分がいた

この前みさきさんの口から「家族みたい」その言葉を聞いた途端、そのささやかな欲求は俺の中で大きくなり始めた


この生活を壊したくない、ずっとずっと


「みさきさん、キャベツ買って帰ろ」

「ピーマンもねー」



それは俺なんかが望むのはお門違いな願いなのに、
叶えられるはずもないその欲が、俺の脳を犯していく



「いや、キャベツ何個買う気!?」

「え、安いし…」

「2人暮らしでキャベツ4玉も消費する家はありません!どんだけ食物繊維とりたいんだよ!」

みさきさんは、俺がキャベツ抱えながらも断続的に欲求と戦っていることを知るはずもないし、これからも知ることはないんだろう。



「来週くらいにあれじゃない?えーと、17日のいなげやの日だっけ?」

「あー、そうなの?」

「そうなの、って…先月リクが言ってたじゃん」

「言ったか」

「言ったよ」

「じゃ、来週はいなげや行かねーとな」

「たまご安くなるといいな」




今日は安売りに関してのネタが多いことに気付いた。
帰りの電車で「相変わらず日本は不景気だ」と言うと、みさきさんが笑った。


「今、私も同じこと思った」




夕焼けを背にのんびり歩く。みさきさんと俺の話は一転二転し、


「あれは大豆だよ」

「えっ、木屑じゃないんさ?」

「木屑なんか食べられるわけないじゃん」

「さとうきび的な存在かと思ってた」

「違う、すりつぶした大豆!しかも、きなこ自体は甘くないの。砂糖とあえて初めて甘いの」

「…うっわ、カルチャーショック」