……

「ふつう?」

「うん、みさきさんて面白い」

「いや、何よ今の…」

「、ああ、変な意味じゃなくて…さ。人間的に結構好きかどうかだけ訊きたいんだよ」



今度は机の上で頬杖をついて、ニコッと笑う。

「で、…すき?俺のこと」

「いや…だから、フツー?」

「そっかそっか。年上のおねーさんは難しいねー」


リクはまたニコニコして、食べ終わったお互いの皿を重ね、流しに持っていった

ジャー

「あ、ありがとう」

「いいえー」

「(…なんやかんやで流された、のかな?)」

「みさきさん、俺ね、時々記憶が吹っ飛んじまうんだ」






リクはこちらを向かずにポツリと言った。水道の音の中で、それは小さくはっきりとした告白だった
私は意外すぎる彼の言葉をとりあえず受け止めて、考えながら口を開く



「…一時的な、記憶喪失になるの?」

「そ。『カイリ』っつってね、一時的なショックとかで、意識あって生きてるのに一定時間の記憶が抜け落ちる。そういうヒトが時々いる…って医者には言われた」


乖離、それは聞いたことがあった。詳しくは知らないが、精神的トラブルが引き起こす症状だったような気がする


「…心に闇でも飼ってる?」

「あはっ かぶと虫なら飼ったことあるー」

「はーい。…じゃあ昨日のことは、覚えてないって?」

「そゆこと、です。気持ち悪いっしょ?なんか怖くね?そーゆーの」


皿を拭いて、食器棚に戻す。手慣れた手つきはこの家の住人そのものだった



「気持ち悪いとか、そんな風には思わないけど…」



頭の中では昨夜、リクは自分で「今日中に帰らないかもしれない」と言ったことを思い出していた。

(記憶がなくなるって分かってたみたいじゃない?)

しかしリクはそれ以上の何かを喋ろうとはしなかったし、私も訊こうと思わなかった