リクという名の青年は夕方ごろふらりと部屋を出ていき、私は1人で夕飯の支度を始めた
「なんか静かー」
リクが一緒に住むようになってから、ご飯の時間が少し楽しかった。
全く知らない人間同士で特に話が合うということもないのに、いつもにこにこしている彼は昔からいる友人のように感じることもしばしばだった
「最近リクがいるのフツーになっちゃったなあ…」
テレビをつけて、あんまり見ないバラエティ番組にチャンネルを合わせる。
「最近知らない芸人多い!」
今日のピーマンの肉詰めは2人分つくって、私のぶんだけ焼いた。
焼いてないぶんは、いつ帰ってくるかわからない彼にとっておいてあげることにする
ベランダから子供の声がした。隣に住んでいる、幼稚園くらいのあの子だろう
「まんげつ?」
「そう、今夜は満月。」
カーテンを開けると、月が丸く光っていた。空気が澄んでいるから一段と美しかった。
風呂に入ろうとしたその時、ドアの方から音がした。
だだ ん
だん
「なになに、なに」
ノック音ではなくて、大きな何かがぶつかる音だった。なんだろ、リク?酔っ払い?
まだ日付は変わらない時間だった。少し不安混じりに覗き穴を覗くと
「い、犬?」
大きな毛むくじゃらの猛々しい動物が見えた
……な ん で だ!
怖い。動物は私の家のドアの前でぐるぐる歩き回って、臭いを嗅いでいる
「…風呂入ろ」
深く考えたくはなかった。どっかの野良犬が紛れこんだんだろう、そうに違いない。今までそんなことなかったけどさ…
ていうかなんであたしの家の前かな。いい匂いすんのかな
だん だん
どん
「明日までいたら保健所呼ぼう。狂犬病持ってるかもしんないしね。うん。恐いね。」
『わぐふっ』
「おお鳴いたよォオオ」
リク、どうしてこういうときに居ない。役に立たないなあ!!
どん
どん
「うわーやめてー」

