「みさきさん?」


声をかけたが反応が無かった。

机のうえに伏せて寝息を立てている無防備な家の住人をじっと見る。
…大丈夫か、この女。知らない男を家に入れて、挙げ句居眠りしちゃうとか。

自分はその優しさに付け込ませてもらってる身分だから何も言うまい。



用意されたバスタオルで髪の水気を拭きとりながら、その辺にあるコップを拝借して水道水をついだ。一口飲んで息を吐く。


「…みさきさーん、起きてー」

まったく動こうとしない。次は彼女の耳元まで口を近付けて、囁いてみる

「おーきてー」



ぴちょん

「ぃっ!」

「あっ起きた」

「も、いま、水たれたよ!てか、近!距離感!車幅感覚を知りなさい!」

「、ごめん」


どうやら彼女は俺の髪から落ちた水滴により起きたらしかった。油断しすぎだよおねーさん。てか、車幅?



「なに、」

「いーえ。なんでもないさ」

「ジャージ、大きさ大丈夫だった?」

「長さは足りないけど幅は大丈夫っす」

「あっそ。スリムで良かったね」



あ、やべ怒らせた?
そう思って顔を覗くと、近いって再度怒られた。ふわっとみさきさんの髪が香る。

俺と同じ、甘いフルーツの香り。同じシャンプー、同じ匂い、あー…家族ってこーゆー感じなんかな



「女のコの匂いに包まれてよく寝れそうでーす」

「はいはいはい、寝てくれ」

みさきさんは面倒臭そうに手を振った。

「…ふはっ」

なんか嬉しくなって笑ってしまった。そして目の前で揺れる彼女の手の指先をきゅ、とつまむ




「ななな何だよう、何ですか」

「みさきさん」

「はい」

「こんなオレを助けてくれて、ありがとう」



みさきさんは少し驚いたような顔をして、焦って首を振った


「じゃあ、おやすみ」

「…おやすみ、」




おやすみ

おやすみ






When did I
言ったの、いつぶりだっけか。