ノイズ

さっきマイクがぶつかったせいで、鼻がジンジンと痛い。


カメラマンとリポーターを何とか振り切り、坂井家の門扉に入ることが出来た。


肩で息をしながら門扉を閉めると、急いでインターホンを鳴らした。


坂井家のドアを開けたのは裕美の兄、順一(ジュンイチ)だった。


「可奈ちゃんじゃないか。どうしたんだい?」



「…夜遅くにすみません。裕美に返さなきゃいけない物があって…」



これは口実だった。


裕美に借りた物なんて特にないのだが、どうしても家に入るためには仕方ない。


「そんなのいつでもいいんだよ」



「でもあたし、どうしても裕美に返したくて……」



最初は訝しげだった順一の表情がふっと、優しくなった。


「今警察から遺体が帰ってきてね。可奈ちゃん、裕美に会ってやってくれないかい?」