◆ある日の研究室1/2◆

帝国大学で講師として教える前の話。私が大学院生だった頃のこと。

ある秋の日の研究室。

トントンと遠慮がちにノックする音。

ドアを開けると女の子が一人。みずえちゃんだ。

サークルの後輩で今、四年生。卒論で行き詰まっている。内定も出ているから卒論を絶対仕上げて卒業しなくては。

「卒論どこまで進んだ?ちゃんと進めておいただろうね」

彼女に問いただす。みずえちゃんはおずおずと言った。

「まだ何をどういうふうに書けばいいのか分からないんです」

「きちんと考えたの」

「いろいろ考えたんですけど駄目で」

「じゃあ一緒に考えよう」