「そろっと行くぞー」


「はーい……って、旬チャリ!?」


今までは歩きだったのに。
なんでいきなり……。

あ……あたしと一緒に歩きたくない、とか。
そうだったらどうしよう。
凹むな……。


「乗れ」


ひとり俯くあたしに声を掛けた旬。
その頬は少し遅い。


「ケツ、乗れって」


自転車の荷台を指差す旬に、深く頷く。
そして荷台に跨り、旬の背中にキュっと抱きついた。


「いいか? 出発すんぞ」


「いーよ」


旬の香り。
爽やかな匂いの香水は旬にピッタリだ。

大きい背中。
旬も男の子なんだなって、実感するよ。


「気持ちいーっ!」


少し急な坂を下ると、あたしは声を上げた。
春の少し冷たい風があたし達の頬を撫でる。


「ははっ、やっぱ柚はガキだな」


「はあ!? 意味わかんないしー、旬だって気持ちいーっとか思ってるくせにー」


あたしってば、ホント可愛くない。
自分で言った言葉に自分で落ち込む。

バカだなあ、ホント。
こんなだから、旬は振り向いてくれないんだよ。

……わかってるのに。
なんでかな。
旬の前だと可愛くできないの。