「ふーん、ならいいけど。あ、今度映画行かねえ?」


「行くっ、なんの映画?」


旬ははにかんだ笑みを浮かべ、チケットをあたしに差し出した。
あたしはそれを受け取ると、旬の顔を見た。


「柚が見たいって言ってたヤツ。なにか御不満でも?」


旬は鈍感だ。

あたしが精一杯に旬への想いを堪えているのに。

それを出来なくさせる。

今すぐにでも、伝えたくなる。


〝大好きだよ〟


って。


「柚ー?」


また、いつの間にか俯いていた顔を上げる。
そこにあったのは、旬の心配そうな顔。

その顔に胸がギュッと締め付けられた。

やっぱりダメ、
伝えられない……ううん、伝えちゃいけない。

だって旬のこの顔はあたしだけに向けられる顔だから。
幼馴染、のあたしだけに向けられる顔だから。


「ごめんー! ありがとね、旬」


ニコッと旬に笑い掛けるあたし。
うまく笑えてるかな。

旬の頬が少し赤に染まったように見えた。


「別に! 柚の為じゃねえし。俺が見たかっただけだからな」


ぷいっ、とそっぽを向いてしまう旬。
そんな旬を見て、あたしは笑みを零した。


旬は嘘つきだ。

でも、それは照れ隠しの嘘。
その嘘があたしには心地良い。


「はいはい、いつにする? 行くの」


「柚に合わせる」


旬はわかってないと思う。
ううん、わかってない。

けど、これは一般に言うデート。

そう思うと、頬が緩むのがわかった。


「来週の土曜日は?」


「いーよ、9時に迎え行くな」


「うん!」


なにを着ようか。
やっぱりスカート?
ワンピース?

旬は気付かないかもしれない。
けど、少しでも可愛いって思ってくれたら嬉しいから。