「東亞、西都。お母さんから大事なお話があるの、聞いてくれる?」

「「…なぁに?」」

遊んでいた僕らにお母さんが寂しそうな顔で声をかけてきた。

「お向かいの妃芽ちゃんのお家がね、遠くへお引越ししなくちゃならないんだって。だから妃芽ちゃんと遊べるのも後ちょっとだけになっちゃうの。」

「「おひっこし…?ひめ、いなくなっちゃうの??」」

「…そうね、妃芽ちゃんは遠くへ行っちゃうからここから居なくなっちゃうの。」

僕らは顔を見合わせる。

妃芽が居なくなる?

そんなの嘘だ。

だっていつも一緒に居るあの妃芽が居なくなるなんて。

「ぼくやだ!!ひめがいなくなっちゃうなんてぜったいやだ!!!」

「ぼくもやだ!!」

「お母さんだって嫌よ?でも妃芽ちゃんのお家の都合だから仕方ないの。東亞と西都が我が儘を言ったら妃芽ちゃんのパパとママが困るでしょ?」

「「でもいやなのーーーっ!!!」」

僕たちはわんわんと泣き叫んだ。

泣いて妃芽を失わなくてすむならいくらでも涙を流す。

そんな事で引越しが無くなるわけないのに。

幼かった僕らの小さな小さな抵抗だった。


その数日後、妃芽は両親と共に遠くの街へと引っ越して行った。

見送る僕らの目は、涙でいっぱい。

そんな僕らを見てお父さんが言った。

「大きくなったらまた逢えるよ。」…と。


あの日から10年。

僕らはまた逢えるのだろうか、僕らの大切な"お姫様"に………。

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