「昨日は… ありがと。」


 有坂くんも、同じく昨日の出来事を思い出したのか、不意にそんな言葉を口にした。


 相変わらず前を向いたままで、私からは後頭部しか見えなくて、どんな表情をしているのかはわからないけど、とても落ち着いた、優しい声だった。


「うん。」


 聞こえたかどうかはわからないけど、取り敢えず答えておいた。






「で、どこ行きゃいい?」


 体育館へ一歩踏み入れた有坂くんは、立ち止まり、ようやく私を振り返った。


 部活動が始まる前の体育館は、シンと静まり返っていて、なんだか余計にだだっ広く感じた。


「こっち。」


 私は有坂くんを追い抜いて、舞台へと向かった。