不意に右肩に背後からの衝撃を食らって、有坂くんはほんの少し前のめりになり苦笑する。


 そんなのお構いなしに、一郎さんは上機嫌で、鼻歌なんか口ずさんで去って行った。


 有坂くんは、三脚のたたんだパイプ椅子を両脇に抱えると、突っ立ったまま、私の方をじっと見た。


 私はしぶしぶ立ち上がると、有坂くんに近付き、


「1こ持つよ。」


 と言って、有坂くんが持っている椅子の一脚に手を掛けた。


「いいよこのぐらい。」


 そう言って、私の手を振り切るようにくるりと向きを変えると、有坂くんはさっさと教室を出て行った。


 私も小走りで後を追う。


 とても気まずくて、私は有坂くんの斜め後ろを黙って歩き続けた。


 渡り廊下まで来ると、昨日のあの惨い光景が鮮明に蘇って、また胸が締め付けられた。


 困ったな… 気を緩めたら泣いちゃいそう。