両手を合わせ、真っ先に卵焼きに手を伸ばすと、私の心配と不安をよそに口に放り込んだ。


「あ、ウマい。」


『嘘。』


「マジで美味いって、信じられないなら食べてみろよ!」


差し出された食べかけの卵焼き。
お弁当には2つ入れた筈なのに、『どうして食べかけ』思わず出た言葉にアイツは「最後に食べるから」そう笑顔で言った。


「ほら、口開けて!」


『自分で食べる。』


「いいじゃん。はい、あ~ん」


『ぁ…ん!、美味しい』


「だろ?!」


うんと頷いた私の顔が、笑顔に変わったのを見て同じく笑顔で、「綾は笑顔が一番可愛い!」なんて心にもないクサイ台詞をサラッと言った。


「そういや、今日俺のこと避けなかった?」


『いつも避けてるけど。』


「…ひどっ!」


『思ってないくせに。』


「フフッ、三時間目の休み時間帯、俺と目あったの思いっきり逸らしただろ?」


『…うん。』


「なんで?」


『嫌いだから。』


「あ、ヤキモチ!?」


『まさか。 』


「即答。 なんとなく解るけど、何が嫌い?」


『アナタ。』


「名前すら呼びたくないって事か。」


『……。』


フッと笑うアイツの横顔は、見たことないくらい元気がなかった。
こんな顔させたくて言ったんじゃないのに、後悔の二文字が私を包んだ。