「お疲れ様でした」

急ぎ足で店を出て、家に帰る。

家まで時間はかからない。

誰かに付けられているという気配もなく、僕は進み続ける。

「過敏になりすぎている、か」

そう思いながらも家に着いた。

ドアを開放した先には私服姿の渚が小さい台所でご飯を作っていた。

僕が帰ってきたのを確認するや、手を止めて僕のところに来る。

「おかえりなさい」

「何も、なかったか?」

「今日は一日家にいましたが、何か特別な事が起こる気配はありませんでした」

「そうか」

すぐに行動に移す気はないという事か。

いや、安易に精神を休めるな。

僕の間抜けな行動が、どれだけの失態を招いたと思っている。

家の中に入り体を落ち着けると、渚は料理を再開した。

子守唄のような音色で鼻歌を歌っている。

「何を作っている?」

「私の持ってきた物で、味噌汁だけでもと思いまして」

僕の家には食材はない。

渚が外に出ていないという事は、間違いなく素朴な物しか作れない。

だが、それが悪い事ではない。

部屋の中を見ると、掃除されている形跡がある。

やる事がなければ、やる事を作るしかない。

「ち」

僕が行動を制限させているというのに、渚は何故笑顔なのか。

気に入らないわけではなかった。

僕には、解らなかった。