二十一時になった頃。

「行くぞ」

「あ、はい」

渚は立ち上がる。

「どこへ向われるのでしょうか?」

「銭湯だ」

「部屋に、お風呂はついていないのですか?」

「嫌なら帰ってもいいんだぞ」

「いえ、付いていきます」

逆に嬉しそうな顔をしながら、自前のタオルを持って家を出る。

「銭湯なんて、何年ぶりでしょう」

渚があの屋敷に何年いたのかは、解らない。

忘れるくらいなのだから、僕が生まれる以前の話なのだろう。

「耕一さん」

「何だ?」

「いえ」

「途中でやめるな」

「でも、大した事じゃないんです」

「二度も言わせるな」

「ごめんなさい。耕一さんが傍に歩いてくれている事がとても嬉しくて、名前を呼んでしまいました」

本当に、大した事ではない。

だが、文句を言うつもりもない。

「そういう事はこれから多くなる」

「能力者探しでしょうか?」

「ああ」

「耕一さんは、闘い続けるんですね」

「僕の道は、そこにある」

強くなり、乾を滅ぼす。

それだけだ。