「あの、私は外で待ちますので」

「お前も少し黙っていろ」

何をしにきたのかは解らないが、渚のほうが優先度は上だろう。

様子からみて、普通の生活も出来ているようだ。

「何で、そんなに真由に冷たいんですか?」

「理由などない」

「先輩、酷いです」

真由は足早にアパートの階段を下りていった。

「あの、よろしかったんですか?」

「お前が気にする事じゃない。それで、何の用だ?」

「あの、その、能力者関係などという深い理由はないんですが」

答えることに困っている。

「理由がないだと?」

「でも、あなたに、会いに来たという理由はあります」

渚は、頬を染めながら、僕を見ている。

「お前、木の傍にいるんじゃなかったのか?」

「それも、重要ですが、あなたの事も気がかりでしたので」

辺りには、相場やアキラの姿はない。

「一人か?」

「はい、家は相場さんに任せてきましたので」

「そうか」

渚を真由のように追い返す理由はなかった。

「入れ」

「私は、入ってよろしいのですか?」

先ほどの様子を見ていたのか、足を進ませようとしない。

「僕が、お前の家に何年居候していたと思っている?」

「でも」

「御託はいい」

僕は渚の腕を掴み、中へと引っ張った。