「渚、話は後でする」

相場は、松任谷の後を追い部屋から出て行く。

「耕一さん?」

僕は無言で渚の縄を解いた。

「お前はお前の道を行け。僕は僕の道を行く」

「どういう、事でしょう?」

「話は、相場から聞け」

渚に背を向け、僕は部屋を出て行こうとする。

「待って!」

渚が僕の背中に抱きつく。

「遠くへ、行ってしまうのですか?」

答えない。

「理由が、あるのですか?」

振り向かない。

「私には、解りません」

声に悲しさを秘めながら、渚は回す手の力を強くした。

「解らなくていい」

渚が催眠術にかけられてからの言葉は、本物だったのか。

だが、カタがついたのなら、関係のない話だ。

「成るべくして成っただけだ」

僕は渚の手を解き、歩き始める。

「待っていてください。必ず、あなたに会いにいきます」

渚の言葉を聞いた後に、扉を閉めた。

僕は渚の家から出て、道を歩いていく。

腑に落ちない事がある。

集団催眠をかけられるほどの力の持ち主が、かじっただけの力だという事だ。

集団催眠をかけられるとするならば、松任谷以外にいないのではないか?

血を飲ませることで催眠状態に陥らせるのならば、いくらでもやりようがあるからな。

そこに、桜子が関わってくるのかもしれない。

「だが」

今は関係のない事だ。

僕は渚の家から遠ざかっていき、闇に紛れた。