「耕一、私ね、乾を探してみたんだ」

「時間の無駄だ、止めろ」

乾を見つけたところで、命を奪われるのがオチだ。

「うん、そうだったみたい。全然、見つからないよ」

悲しい表情を浮かべたままだ。

「私、何も、出来ないんだね」

弱気になっている様子を見せる。

「普通の人生を生きろ。それはお前しか出来ない生き方だ」

「普通の、人生」

僕は改札口に切符を通す。

「それを踏み外した時、お前は死ぬ」

能力者でない者が能力者のいる世界でできる事は、どうやって生き延びるかだけだ。

それが出きるのは、知能の高い者。

能力に匹敵するほどの閃きを持ち、尚且つ運動神経が高くなければ、生き延びる事は出来ない。

それは決して、勝つ事ではない。

「耕一は、いつもの日常に戻る事は、ないの?」

改札口の向こう側から聞こえる桜子の声。

僕は振り返る。

「桜子、夢とは何か分かるか?」

「夢?」

「夢とは決して叶う事のない物。夢とは寝る時に見る物。僕にとっていつもの日常とは夢と同じだ」

乾を倒す事、それもまた夢の内の一つなのかもしれない。

だが、一撃だけでもこの拳を与えられるなら、夢であっても僕は成し遂げるしかないのだ。

今、桜子に言ったばかりなのに笑えるほどの矛盾だ。

乾を倒す事よりも、日常に戻る事のほうが僕にとっては夢でしかないのだ。

きっと、いつかは僕も報いを受ける時が来るだろう。

僕は背中を見せる。

「耕一!私は、夢は叶うと思う!絶対!だって、そうじゃないと、人が夢を抱いちゃいけないじゃない!そんなの、絶対違うよ!」

僕にとって桜子の言い分は、普通の人生を送っていく者の台詞だ。

「だったら、何で、何のために、耕一は強くなったのよ!それは、目標、夢を叶えるためじゃないの!?」

「眩しい、な」

桜子の言い分は僕にとっては眩しすぎる。

僕は桜子の言い分を聞く事はなく、前へと足を進めた。