つもり、だった―――。


「なんで知ってんの?」


「――― ッッ」


前田先輩が、ピタリ。 足を止め、冷たい瞳で俺を見つめる。


「まおの耳のこと、学年が違うお前がなんで知ってんの?」


その声は、怒り――― とか、そんなものでは無い。


「俺、聞いているんだけど?」


空気が、マイナス2度は下がったに違いない。 今は夏なのに、冬のような寒さが俺を刺激する。


「たまたま、二人の話しを、聞いて―――」


「二人って?」


「前田先輩と、木下先輩デス……」


声が震える。 なにも悪いことをしていないのに、怒られているようだ。


俺より背が高い前田先輩に見下ろされているせいか、前田先輩の迫力が、ハンパない。


次第に足まで震え出す。


「つーか、耳が聞こえなかったら合宿に参加しちゃいけねーわけ?」


「いえっ、そんなこと、ないです」


一歩、後ろに下がる。