旅人が、肩から大きな荷物を床に降ろすと、その上に腰を降ろした。




長い事、歩いて旅して来たのだろう…




彼の靴は元の色が解らないほど汚れ、踵は擦り減っていた。




旅人は暫く上を…空を見上げていた。




青く抜けるような空だった。




ふと、何かを思い出した様に、立ち上がると再び重い荷物を背負い、来た方向とは反対の方向に歩き始めた。




その旅人の後ろ姿を見送りながら、ふと、自分は本当の旅をしたことが無いなと思った…




行く場所、宿泊先、帰る日…全てが決められてる旅行は、旅とは呼ばない様な気がする。




旅行とは違う旅の香りを残したまま、旅人の姿は雑踏の中に消えて行った…